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もしも祐巳がお姉さまだったら

なんていう妄想をする山百合会の面々。
なんだかんだ成長した祐巳の妹になれたら幸せそうだしね。




「ねぇ、祐巳さんって四月生まれよね?」

 いつもの放課後、いつもの薔薇の館でいつもの雑務をある程度こなして、皆でお茶を頂きながら休憩。
 祥子さまと令さまは薔薇さまとしての用事で職員室へ寄ってから薔薇の館に来ると言う。聞かされていたからわかってはいたけれど、放課後すぐにお姉さまに会えないのはちょっぴり寂しい。

 というわけで薔薇の館には現在、祐巳、由乃さん、志摩子さん、乃梨子ちゃんの四人が集まって仕事を消化しにきている。
 皆で書類を仕分けているときに由乃さんが唐突にそんなことを言い出したのだ。

「まぁ、そうだけど……それがどうかしたの?」

 うーむ、と首を捻る祐巳。自分の誕生日はまだまだ先なのになぜ急に誕生日の確認をしてきたのだろうか。

「いや、大したことじゃないわよ。もし、祐巳さんが生まれるのがあと少し早かったら、どうなってたのかなって思ってね」

 唐突な質問の意図をいまいちつかみきれないことで戸惑っている祐巳のコロコロ変わる表情で察したのか由乃さんは、祐巳の疑問符に対する答えを持ってきた。

「祐巳さまってお誕生日早かったんですか?」

 少しだけ驚いたような意外そうな表情をした乃梨子ちゃん。そんな乃梨子ちゃんの表情を見て、何を思ったのか、何を考えたのかを祐巳は察する。

「もしかして、私が誕生日早そうに見えなかった?」

 祐巳のその言葉にこくりと頷く乃梨子ちゃん。つまりは、祐巳が子供っぽいから誕生日も遅いというイメージを抱いていたのだ。
 確かに、由乃さんはともかく同学年の志摩子さんに比べると落ち着きがないというか子供っぽいのは自覚している。しかし、落ち着きや立ち振る舞いは別にして考えるのであれば、祐巳は志摩子さんや由乃さんよりもお姉さんなのである。

「むぅ、こう見えても今のこの中じゃ一番お姉さんなんだからね!」

 そう言って「えっへん」と胸を張る祐巳。
 お姉さんという割にはその姿はかなり幼いと誰しもが思った。祐巳自身も言ってから、子供っぽいかなだなんて思った。山百合会の面々は基本的に優しいので誰も言及をしなかった。

「祐巳さんが一番お姉さん……ねぇ」

 じとーっとした目で祐巳を見やるは由乃嬢。
 その目は、不服そうというか納得できないというか、祐巳が自分よりもお姉さんとの事実を気に入らないと告げていた。無論、本気で嫌がっているわけではない。
 ただ、どちらかといえば自分の方がお姉さんっぽいのになんだかなぁ……だなんて思っているだけなのである。

「でも、祐巳さんが三年生だったらそれはそれで楽しそうね」

 紅茶を一口飲み机の上にカップを戻すだけなのに様になるのは祐巳の親友の一人である志摩子さん。

「祐巳さまが三年生かぁ……」

 乃梨子ちゃんがそう言ったのを皮切りに一同は祐巳が一学年上だったらどうなっていたのかを想像する。


~由乃の場合~

「あら、由乃。タイが曲がっていてよ」


 ……何か違う。
 由乃はその祐巳さん(想像)に違和感を抱かざるを得なかった。なんというか祐巳さんは学年が一つ違うからと言って上級生ぶるタイプではない。似合っていないことこの上ない。
 そんな性格だから一年生からの人気が高いんだ。
 その誰にでも見せる無垢な笑顔と、嘘なんてつけない優しくて真っ直ぐな心。その親しみやすさが祐巳さんが人気の理由。

 本当に誰にでも優しいのである。
 荷物を運んでいる一年生を見かけたら「上級生だから助けてあげなきゃ!」なんて言って、少し方向性の違った感じで上級生ぶったりするのだ。
 助けられた一年生は、そりゃもうパニックである。雲の上の存在で、ただ眺めることしかできない薔薇の蕾が何の打算もなく自分から手を差し伸べてくれるのだ。そりゃ憧れるのも無理はない。
 もちろん、由乃だって祐巳さんのそんな性格が大好きなのではあるが、時々やきもきする。
 昨日なんて、一年生から手作りのお菓子をプレゼントされていた。しかも、それが昨日だけじゃないのである。由乃が数えた限りでは少なくとも片手の指では足りない位には貰っていたはずである。
 そしてあの太陽のような笑顔を一年生に向けるのである。横に親友の私がいると言うのに、その笑顔を一年生に向けるのはなんだかムカムカする。

 閑話休題

 祐巳さんが仮に姉だったとした祥子さまみたいに「タイが曲がっていてよ」だなんてことは多分ない。
 祐巳さんの見た目で、祥子さまみたいな雰囲気を纏っていたら普段の祐巳さんを知っている所為で違和感しか感じない。
 ゆっくりと、祐巳さん像を崩さずに考えよう。

 祐巳さんが姉、祐巳さんが姉、祐巳さんが姉……


「由乃!お昼ごはん一緒に食べよ!」

 うん、これだ。心の中の内なる由乃がガッツポーズをとる。
 祐巳さんはそんな事言いながら、パタパタと自分の教室まで迎えに来てくれたりするのなんて中々いい。
 それを、他のクラスメイトたちに見せ付けながらどこか二人っきりになれる場所に手を繋いで一緒に歩いたりしちゃうのだ。

 二人っきりの場所に着いたなら並んで座ってお弁当を広げて

「「いただきます」」

 二人同時に声を出してご飯の挨拶をしちゃったり。

「由乃、それおいしそうだね。一つちょうだい」

 祐巳さんは目を瞑って口を開けて待っている。相手はお姉さまで上級生なのにそうは見えなくて、とってもいじらしくて可愛い。
 皆があこがれる福沢祐巳はこんなにも等身大の女の子だってことを知っているのは自分だけだという事実がたまらなく嬉しくて仕方が無い。

「お礼にこれあげるね。私のお気に入りなんだ」

 そう言ってオカズをつかんだ箸を此方へと持って来て……

「由乃、あーん」

 恥ずかしい恥ずかしい!
 誰にも見られてなくたって恥ずかしいものはどうしようも無い。
 でもその羞恥心すら心地よくって逃れようのない魅力を形作っている。

「あ、あーん」

 結局は嬉しさが勝ってしまい、照れながらも祐巳さんのオカズをパクリといただいちゃうのだ。

「どう、おいしい?」

 味なんて恥ずかしさと嬉しさで殆ど分かったものじゃ無いけれど、祐巳さんがおいしいと言ったならおいしいに違いがない筈。なので一応「おいしい」と一言だけの感想を述べる。
 祐巳さんはそれを聞いて「良かったー」なんて言ってるからきっと気付いてない。

 ……間接キスをしてるということに。

 そんなこんなで恥ずかしさで味なんてわからなかったけれど、最高のお昼ご飯の時間を過ごして

「それじゃ、また放課後にね」

 なんて言って途中まで手を繋ぎながらそれぞれの教室に戻るのだ。

 祐巳さんは今日も間接キスをしたことに気付いてなかった。
 願わくば、誰にも気づかれない自分だけが知っている幸せが明日も続けばいいな、なんて思いながら由乃も教室に戻る。


 ふむ。と妄想の世界から一旦の帰還を果たした由乃は一言。

「……いいわね」

 幸いというべきなのか、志摩子さんも乃梨子ちゃんもまだトリップしているようでその呟きは耳に届いてなかったようである。
 祐巳さんには聞こえていたようだけど、何のことを言っているのかイマイチわかっていないのが表情でわかる。

 そんなコロコロ変わる百面相を見ながら思うのだ。

 祐巳さんみたいなお姉さまがいたら、高校生活はとびっきり楽しそうだわ

と。





~乃梨子の場合~

 別に祐巳さまが一学年上だったりしても、私としては志摩子さんや由乃さまほど影響があるとも思えないけれど……
 一学年上の先輩が二学年上の先輩に変わるのだけ。

 でも祐巳さまが紅薔薇さまや黄薔薇さまと同学年というのはなかなか想像するのが難しい。
 案外、志摩子さんの姉になって白薔薇さまなんかになっていたかもしれない。先代の白薔薇さまは祐巳さまが大のお気に入りだったと志摩子さんも言っていたし、その可能性は案外大きいのではないだろうか。

 閑話休題。

 そして乃梨子は一考。
 所詮「たら」や「れば」の話なのだ。ちょっと位祐巳さまが姉だったとしたらなんて考えても志摩子さんに対する不敬にはならないはず。そもそも志摩子さんはこれ位ではなんとも思わないと思う。

 乃梨子は改めて祐巳さまの事を改めて考えてみる。
 二年生で、紅薔薇の蕾で、志摩子さんと由乃さまの親友の先輩。
 そして多分、乃梨子がリリアンに来てから志摩子さんの次には関わりが深い先輩。

 というのも、乃梨子は白薔薇の蕾で帰宅部で、祐巳さまも紅薔薇の蕾で帰宅部なのである。学年は違えども、同じ薔薇の蕾であり、同じように山百合会以外に所属していないのである。
 志摩子さんは環境整備委員に所属しているし、黄薔薇姉妹は剣道部員、紅薔薇さまはかの小笠原グループの一人娘という事もあり、放課後に用があることもある。

 と、現山百合会のメンバーは割と多忙な人が集まっていたりする。
 その中で帰宅部である乃梨子と祐巳さまの2人は必然的に、放課後に一緒になることが多くなる。
 多くなればそれこそ話す機会だって増えるというもので、なんだかんだ祐巳さまと一緒に仕事をしているのが一番楽なのだ。

 特に会話も無く、延々と作業していても祐巳さま相手だとまったく気まずくならないあたり、結構関わりが深い気がする。

 つまるところ、祐巳さまとの間に暗い感情なんてないし、その純粋で実直な性格は嫌いではないというか、非常に好ましい。
 先代白薔薇さまも祐巳さまが大好きだったと聞くし、志摩子さんが祐巳さまに対し、密かに大好き光線を出しているのを妹である私は知っている。
 かくいう私も祐巳さまの事が大好きである。勿論、そんな事おくびにも出してないので志摩子さんであっても気付いてはいないハズ。
 ただ時折、紅薔薇さまに怪訝な目で見られているからあの方にはバレてはいなくても怪しまれてるかもしれない。流石はリリアン最強の紅薔薇さまということか。

 ともかく、祐巳さまにどうしようもなく惹かれてしまうのはきっと白薔薇ファミリーの遺伝子に違いない。そうなると来年に妹ができたとしたらその妹も祐巳さまにべったりになんて事になってしまったら私は自分の妹に嫉妬する羽目になるのか……

 また逸れてしまった。今は祐巳さまの事を考えるのが先決である。
 祐巳さまが姉、祐巳さまが姉、祐巳さまが姉……

 場所はいつもの薔薇の館。いるのは私と祐巳さまの2人っきり。
 黙々と居心地の良い沈黙の中で作業をしていると祐巳さまが突然

「ねぇ、乃梨子って綺麗だよね」

 だ、なんて事を言い出した。
 その幼い顔立ちから滲み出る年上の雰囲気というアンバランスさを纏った祐巳さま(想像)にずきゅん!と乃梨子の中の何かが音を立てて撃ち抜かれる。

「お、お姉さま?突然どうしたんですか?」

 よく大人びていて落ち着いていると言われる乃梨子ではあるが、それでも唐突すぎる出来事に動揺を隠せていない。
 否、どんなに落ち着いていようとも祐巳さまにかかれば乃梨子の落ち着きなど一瞬にして突き崩す事ができる。それも無意識で。

「私ってほら、癖っ毛でしょ?だから乃梨子の綺麗でサラサラな髪がいいなーって思って」

 ほら、案の定だ。なんというか祐巳さまは無意識に他人を動揺させる。
 綺麗というのも髪の毛の事であって、特に意識して乃梨子に言ったわけではない。

 よし、一先ずは落ち着こう。動揺してしまった心を落ち着けるのだ。
 綺麗だと言われたのは髪のことであって深い意味はない。
 でも、髪が綺麗だと言われるのもとてつもなく嬉しい。女性の命とも言われる髪を褒められるということをよくよく考えてみると、相当な嬉しさがジワジワと込み上げてくる。
 祐巳さまが私の髪を綺麗だって、サラサラで綺麗だって言ってくれた……

(落ち着け落ち着け!)

 ニヤけそうになる頬を、意志の力で必死に抑えようと一人で戦っているとふわりと何かが髪に触れた。

「うん、やっぱり乃梨子の髪はサラサラだね」

「ッッーーーーーー!」

 頭の中で乃梨子の冷静さというものがバチンと音を立てて弾け飛び、頭の中は新品の自由帳の如く真っ白に、そして顔は熟れたリンゴのように真っ赤。

「ど、どどどど、ど……!」

 どういう状況なのか、どういう事なのか。乃梨子の身に起こった突然の衝撃に脳の正常な回路は焼ききれてまともな判断ができない。その所為で、祐巳さまの専売特許である道路工事が思わず口から出てしまう。

「ふふ、顔真っ赤だよ」

 そんな指摘をされても、一度顔へと集まってしまった血液を乃梨子はどうすることもできない。
 普段は年下かと思うほどに、幼く見える祐巳さまなのだけど、時折チラリと見せる年上の魅力が、普段とのギャップでこの上なく恐ろしい。

「つぅ……はぁ……」

 その漏れるような声が自分のものだと乃梨子が気付いたのは口から出てしまったあとだった。
 祐巳さまの指が、乃梨子の髪をかき分けて頭の皮膚を直接触りそのまま櫛を入れるようにすぅっと指を滑らせる。
 髪を触るのに合わせて、頭の皮膚を直接触られて、触れられたところから肌が粟立つような甘い痺れがゾゾゾゾと頭から背中。そして背中から手足の指先まで伝わる。

「祐巳……さまぁ……」

 なんて甘美な感覚なのだろう。頭皮に触れている祐巳さまの指から直接『幸せ』というものを流し込まれてると言われても信じてしまうことだろう。
 それ程までに、祐巳さまの指先は二条乃梨子という人間をとろとろに溶かしてしまっていた。
 
「羨ましいなぁ。羨ましいなぁー」

 するすると乃梨子の頭と髪を撫でるのをやめない祐巳さま。
 きっと、祐巳さまはこのとろけきってしまった乃梨子のことを知っていながらも撫でるのをやめないのだろう。
 乃梨子は自分で分かるのだ。どれ程までに自分が幸せそうな表情をしているかということを。

 つまり、二条乃梨子は祐巳さまに髪を撫でてもらう甘い感覚がたまらなく好きで、やめて欲しくないのだ。祐巳さまはそれを察している。だからこそその手を緩めない。

 どれ位経ったのだろうか、十秒にも十時間にも感じられたその幸せは突然止まった。
 乃梨子は動揺した。

 一体何故?自分が何か気に障ったことをしてしまったのか?それとも、ただ単に祐巳さまが二条乃梨子という人間に飽きてしまったのか。
 ただ、髪を撫でられるのが終わったというだけなのに乃梨子の中に溢れた感情はあり得ない程悲観的なものだった。
 冷静になればそんな思考がおかしいということにも気付く筈だが、この瞬間の乃梨子には僅か程の冷静さすら残っていなかった。

 そんな、消極的思考の循環にとらわれてしまう。

「ひゃっ……」

 思考を断ち切るかのように、先程までとは打って変わったまったく別の刺激がぞわりと耳を撫でる。

 すんすんと耳元で何かが音を立てて、それと同時に生暖かい空気がさわる。

「……綺麗なだけじゃなくて、いい匂いもする」

 さて、自分が祐巳さまに何をされているかそれを理解しようと壊れかけの思考回路をなんとか全力で働かせる。

 耳元で聞こえてきたのは祐巳さまの声、つまり耳を撫でたのは祐巳さまの吐息。
 そしてその直前に聴こえたすんすんとい
う音と祐巳さまの言葉から察するに、祐巳さまは乃梨子の髪を……

 その答え合わせをするために、視線を祐巳さまの方へ向けると

「私、乃梨子の匂い好き」

 祐巳さまが乃梨子の髪に鼻をうずめていた。

「ッッッーーーーーーーー!」

 瞬間、駆け巡る恥ずかしさと壮絶な照れ。そして、祐巳さまが自分の髪に顔をうずめているという得のしれない背徳感が爆発的に乃梨子の中に雪崩れ込む。
 その情報量の多さに耐えきれず、ボンッと音を立てて、乃梨子の理性や思考能力諸々は爆発四散した。



 

 場所は戻って薔薇の館。

「乃梨子ちゃん、どうしちゃったんだろ……」

 一人、妄想の世界に旅立っていない祐巳は、八百屋に並べたらトマトと間違って買われても仕方ない程に顔を真っ赤にした乃梨子ちゃんを見てどういうことなのか困惑していた。




~志摩子の場合~

 祐巳さんがお姉さま。
 日頃、祐巳さんの事を考えることは多々あれども、祐巳さんが姉だったらという仮定を考えることは初めて。

 私は、中等部の頃から祐巳さんを見ていた。と、言っても本当に遠くから時々見ていただけ。今みたいに一緒にお弁当を食べるなんて事はなく、言葉を交わしたことも三年間通してもあるかないか怪しい所。
 それでも私は祐巳さんの事を知っていた。
 ……理由は単純。祐巳さんを見ていたから。

 最初は意識していた訳ではなく、ただ羨ましかった。純粋にこのリリアンの生徒として楽しそうな姿と真っ直ぐさが羨ましかった。その羨ましさは見ているうちにいつの間にか憧れへと変わっていた。
 それでも、ただずっと見てるだけ。中等部の三年間、そして高等部に入ってもそれは変わらない……そう、思っていた。

 突然、祐巳さんが薔薇の館に訪れてから私と祐巳さんの距離はめまぐるしく変化を始めた。
 成り行きで祥子さまの妹になりそうだったとき、祐巳さんは祥子さまからロザリオを受け取るのに躊躇っているように感じたのだ。
 具体的にどういった所に感じたのか、と言われたら困ってしまう。きっと、ずっと遠くから見ていたから。祐巳さんの変化を無意識にでも察したのだと思う。
 実際、その通りで祐巳さんは祥子さまからの申し出を断った。

 他の誰も気づかなかった祐巳さんの変化に気付けた事が誇らしかった。

 祥子さまの代わりに私にシンデレラ役はどうなのか、と言われた時は驚き反面少し嬉しかった。
 私を頼ってくれたこと、私がシンデレラというメインヒロイン役にピッタリだと言ったこと。祥子さまへの助け舟としての言葉だと分かってはいても嬉しかったのだ。
 祥子さまが止めなかったら、きっと引き受けていたに違いない。

 紆余曲折あり、祐巳さんが祥子さまの妹になり、山百合会の一員となった時、私の心は祐巳さんに囚われ始めていた。
 ずっと見てるだけだった憧れは、近づいてしまったことによって別のものへと変わってしまった。友情なのか、愛情なのか、そのどちらかは未だにハッキリしないけれど、
 祐巳さんの事が好き。

 それだけはハッキリ分かる。

 それこそ祥子さまの次……いいえ、祥子さまにも負けない位には祐巳さんの事を大事に思っている。
 今は、触れられるこの距離が心地いい。
 だから傍にいさせてね、祐巳さん。
 
 あと、乃梨子はバレていないと思っているみたいだけど祐巳さんが好きなことは知っている。
 姉である私に似たのか、乃梨子も白薔薇ファミリーなのだとしみじみ。

 閑話休題

 祐巳さんが姉。
 由乃さんや乃梨子に比べるなら一番可能性があるのは私のはず。
 お姉さまが私と出会う前に祐巳さんと姉妹になり、そこから祐巳さんが私を妹にすれば無問題である。切欠やそこに至るまでの紆余曲折は『もしも』の話なので省略と言うことで。

 祐巳さんが姉、祐巳さんが姉、祐巳さんが姉……



「志摩子」

 ゾクり。
 これまでの人生で一度たりとも感じたことのない感覚……いや、快感が志摩子の髄を駆け抜ける。
 自身よりも年上の祐巳さんが呼び捨てで名前を呼ぶ。ただ、それだけの事なのに志摩子の脳内はどうしようもないほどに悦んでいた。

「志摩子」

 ゾクゾクゾク
 友人としての立場からの呼び捨てではなく、姉として妹に対しての名前呼び。
 祐巳さんにさん付けされずに名前を呼ばれるということは考えたことはあれど、こういった特殊なシチュエーションを込みで考えたことはなかった。

「志摩子」

 ずるずると身体中にミミズのような快感が走り回る。
 想像だにしていなかったその衝撃に志摩子は自分を保つのに必死だった。

「おはよう、志摩子」

 その衝撃たるや、想像を続けることすらおぼつかなくなりはじめていた。想像し描いていたリリアンはぼやけ、他の生徒たちの声は遠く、風は止んでしまった。

 ただ、祐巳さんだけはぼやけることもなく変わらない……いや、更にクッキリとした形を作っていた。

「志摩子、帰ろ」

 風景はぼやけ、音は遠く、風もそよがず、地の感覚もない。そんな出来損ないの世界でただ一つ祐巳さんだけは存在したいた。

 空は見えなくても、祐巳さんの睫毛は一本一本まで見える。
 音は消え去っても、祐巳さんの吐息はすぐそこに聴こえる。
 肌が空気を感じなくても、祐巳さんの体温を感じている。

 今の志摩子の世界に存在するのは祐巳さんただ一人だけだった。

「お姉さま」
「ん、なに?」

 またしても身体中をぞわぞわとした快感が走り抜ける。祐巳さんをお姉さまと呼ぶという、出処のわからない背徳というスパイスを含んだことで志摩子は更に脳を蕩けさせた。

 危険だった。
 今の志摩子にとって、祐巳さんは麻薬や覚せい剤に等しい程のものへと昇華されている。
 祐巳さん(妄想)の声は志摩子の理性を溶かし、祐巳さん(妄想)の視線は志摩子の心拍数を上げる。

 ブレーキをかけなければいけない。

「志摩子、手、繋ご?」
「はい……!」

 手遅れだった。
 なんて甘美な毒なのだろうか。祐巳さんには麻薬と同じように強烈な中毒性があった。
 一度、中毒になれば最後。二度とそれ無しでは生きていけない身体になってしまう。

「お姉さま……」

 志摩子はきっと祐巳さん中毒になってしまったのだ。それは祐巳さんがいなければ生きていけないということ。
 祐巳さんの甘い香りが志摩子の鼻腔を満たすたび、祐巳さんのちょっぴり高めの体温を肌で感じ取るたびにその症状は重くなる。

「志摩子、好きよ」
「私も好きです、お姉さま」
 
 多分、志摩子はこの中毒症状から一生抜けられないのだと思う。

 少なくとも、今この瞬間は確実に祐巳さん中毒になっているのだ。
 熱を孕んだ身体が何よりもその証拠だった。







 余談ではあるが、一学年上だったらという話なのに、当然のように祐巳と姉妹になっていると考えているのは三人が三人とも祐巳の事が大好きな所為である。

所戻って。

 由乃さんが祐巳が一学年上だったらと言い出してから、祐巳を除いた3人が黙りこくってしまい、その真剣な表情に祐巳は何も言えずにお茶請けの鳩サブレをちびちびと齧っていた。

 少し経つとそれぞれが全く違う表情を浮かべ始めたので、することもないしそれを観察する。

 由乃さんは少し頬を赤らめて、いじらしい微笑みを浮かべて何か呟いていてなんだかかわいい。

 乃梨子ちゃんは、顔を耳までというか首あたりまで真っ赤にして固まっている。心なしか頭からは湯気が出ているように見える。

 志摩子さんは、他の2人とは違ったオーラを纏っていた。

 そんな志摩子さんを何気無く見つめていると目が逢った。その目はトロンとしていて色々と鈍感な祐巳ですら分かる程の熱を持っている。

 互いに数回パチクリと瞬きをした後、志摩子さんはゆっくりと口を開いて

「お姉さま……」

 ポカーン。
 祐巳の、顔にはそんな、擬音が貼り付けられていた。状況の整理がつかないでいると、ふと右手に柔らかくてスベスベした感触。

「お姉さま」

 志摩子さんが恍惚とした表情で祐巳の右手を両の手の平で柔らかく包んでいた。

「ど、どどどど」

 あまり、容量の大きくない祐巳の頭はパンクしてしまい状況の理解なんで到底できなくなっていた。

「ちょっと、志摩子さん!人の姉に手を出さないで頂戴!」

 天、祐巳ニ味方セズ。
 自体は更に収束のつかない方向に進むらしい。
 由乃さんが入ってきて、空いていた左の手を強引に掴む。由乃さんの指はか細くて、こんな時なのに普段のイケイケぶりとのギャップに少しドキりとしてしまった。

「由乃さまも志摩子さんも、いい加減な事を言うのやめてください。私のお姉さまが困っています」

 お次は乃梨子ちゃんが入ってきて祐巳の背後から抱きついた。
 頭に少しのくすぐったい感覚と
「祐巳さまもいい匂いですね」
 という声でパンクしている頭が更にこんがらがってしまって、祐巳は顔を真っ赤にしてあわあわと表情を百面相させている。

 ただ、祐巳が一学年上だったらってだけの話なのに、どうしてこうなっているのかは微塵もわからなかった。

 祐巳を挟んで3人は視線をぶつけ合った後、祐巳を見て同時に口を開いた。

「うちに令ちゃんの作ったクッキーがあるからお茶しに来ない?」
「今日はうちに泊まりにきませんか?きっと菫子さんも歓迎してくれますよ!」
「今日は一緒に帰りましょう……その、手を繋いで……」

 三者三様、それぞれが同時に別々のことを言うので、聖徳太子でもない祐巳には聞き取れるはずもなかった。
 ただ、最後だけは示し合わせたかのように3人の声がキレイに重なった。

「「「お姉さま」」」





「思ったより時間がかかったしまったね」
「えぇ、こんなにも時間がかかるのならちゃんと言っておくべきだったわ」

 薔薇の館の前に立つのは黄薔薇さまと紅薔薇さまの2人であった。
 山百合会としての仕事で2人とも薔薇の館に顔を出すのが遅くなってしまったのだ。それぞれ妹にはすぐに終わると言っていた手前、僅かばかりの申し訳なさを感じていた。

「今は急ぐような仕事もないことだし、ゆっくりとお茶にでもしましょう」
「そうだね、もう少ししたら忙しくなるし休めるうちに休んでおこうか」

 薔薇の館の玄関扉を開けて二人とも中へ入る。そこで少しばかり違和感に気付く。
 館の二階からドタバタと普段はそうそう起こらないような騒々しい物音が聞こえてくるのだ。

「どうしたんだろう?」
「さぁ……。でも入れば分かることだわ」

 痛んでぎしぎしと音のなる階段を上がり、ビスケットのような扉の前に立つ薔薇様方。

 やはりそこにいても中からは若干のバタバタといった音が聞こえる。それから僅かばかりのくぐもった声も聞こえるが、内容までもは分からない。

「中に居るのは由乃たちで間違いないね」

 聞こえてくる僅かな声だけで中に居るのは山百合会の残りのメンバーということがわかって一応の安心。第三者が来て何かをしているのではないのならどう転んでもあまり悪い方向の出来事は起こらない。

 ガチャリとノブを回して、ドアを開く。

「え」

 時間が止まった。

 百戦錬磨の薔薇さま方といえども自分たちの未知においてはどうしようもないということか。
 二人は固まって目の前の状況を眺めていることしか出来なかった。

「大丈夫よ、力を抜いていればすぐに楽になるわ」
「はぁ……いい匂いです、お姉さま」
「お姉さまお姉さまお姉さまぁ……」

 二人の眼前には、黄薔薇の蕾で令の妹である由乃と白薔薇姉妹の志摩子と乃梨子の三人が、紅薔薇の蕾こと福沢祐巳を押し倒して引っ付いて三者三様なんかアレな感じの事をしていた。
 祐巳のタイは曲がっているというか解かれていて、制服も少し肌蹴ていて、羞恥に染まって真っ赤になったその表情と相まって思わず生唾を飲んでしまうほどの色っぽさを醸し出していた。

 押し倒されていた祐巳は真っ先に入ってきた祥子を見つけ
「お姉さまぁ、んっ……助けてぇ」
 だなんて熱を孕んだSOSを発信した。

 その声によって固まっていた祥子の思考回路はフルスロットルで稼動し、今の状況を全力で理解しようとする。令は相変わらず固まったままである。

 どうしてこうなったか、状況は何一つ分からないままであるがたった一つ分かったことがある。

 それは、愛する妹の貞操がピンチということである。

 それさえ分かってしまえば祥子の中のエンジンに火を点けるのは十分だった。

 身に纏うのはリリアン最強、紅薔薇としてのオーラ。内に秘めるは愛する妹を守るための激情。

「あなたたち、何をしているのかしら……?」

 静かだが圧倒的な『プレッシャー』を纏った祥子の声が薔薇の館を満たす。

「「「あっ」」」

 そこでようやく3人は祥子が入って来たことに気付き、その言霊の重さに魂を震わせた。

 その日、薔薇の館にはリリアン史に残る程の雷が三つ落ちたという。


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